#10/アルバムレビュー 『Tree』 SEKAI NO OWARI
SEKAI NO OWARIが2011年に元来の日本語表記から、 バンド名を現行のアルファベット表記に改めた際、 邪推ながらも連想したのは同年に発生した『東日本大震災』 のことでした。“世界の終わり”は現実化してしまった。 それでもなお“終わり” そのものを表現し続ける意味を彼等自身が見いだせなくなったので はないか――。無論、これはあくまで“邪推” であって東日本大震災と彼等のバンド名の変更に直接的な関係があ るかどうかは良く分かりません。
バンド名の変更以後彼等が体現するイメージは変わったように感じ ます。初期の『幻の命』 といった楽曲の背景に存在しているものが『現実』 であるとするならば、いまの彼等の楽曲の背景にあるものは、『 ファンタジー』であると言えるでしょう。
2015年1月14日にリリースされたSEKAI NO OWARIのメジャー・デビュー後、第二作目のアルバム『 Tree』は、言うなれば“幽霊が漂う廃墟” に打ち立てられた巨大樹です。誰もがその巨大樹が“作り物” であることを知っています。SEKAI NO OWARIが巨大樹にどのような思いを込めたとしても、 巨大樹もまた“妄想”や“ホビー” の一つとして世の中に回収されていくことは事実です。そして“ 妄想”や“ホビー”が語る物語とSEKAI NO OWARIが体現する物語は必ずしも一致しません。
それでも彼等は『Tree』を通じて“妄想”や“ホビー” といった異なる物語にカーニバルへの招待状を“誠実に” 送ることを試みています。かつ“カーニバルに来ない客” のことを“他者”として尊重することも忘れていない。
『Tree』は現実と隔絶した“セカイ”ではなく、“ 終わりを迎えた後の世界”から生まれたアルバムです。
彼等はファンタジーを体現しながらも、 極めて真剣に世界と対峙しています。
1.the bell
教会の鐘が鳴る音が収録されたトラック。
2.炎と森のカーニバル
『Tree』へのインビテーション・ カードのような位置付けの楽曲。吹奏楽団が録音に参加しており、 街を練り歩くマーチング・ バンドを思わせる楽器編成で演奏される曲でもあります。『 炎と森のカーニバル』というタイトルとサビのフレーズに対し、 Aメロの冒頭に用いられる単語が『YOKOHAMA』 であることは面白い事実です。『YOKOHAMA』と『 炎と森のカーニバル』 は一つの作品の中に隣接して置くことが出来る要素であるというこ とでしょう――『炎と森のカーニバル』から地名を切り離したら、 カーニバルは“いま・ここ”から遠のいてしまう――か。
『炎と森のカーニバル』は衣装とPVの完成度が、 非常に高い楽曲でもあります。
PVにおいて、SEKAI NO OWARIとバックの楽団のメンバーは真紅を基調にした衣装に身 を包んでいます。そして『ミイラ男』といった“非現実的な存在” だけが白を基調とした衣装を着用しています。SEKAI NO OWARIのメンバーはPVの終盤において彼等と“死体” を想起させるダンスを踊り、 Fukase以外の登場人物はやがて胸の前で腕をクロスさせ―― 棺桶の中の遺体のように――動きを止め、 物語の主人公に当たるFukaseだけが“非現実的な存在” 及び、彼等と“同化”してしまった他のメンバーの元を去ります。
3.スノーマジックファンタジー
『Tree』の収録曲の中で最も強く “甘い死”のイメージを打ち出した、 退廃的でさえある楽曲だと言えるでしょう。
『スノーマジックファンタジー』のPVは“窓が無い空間” の中でSEKAI NO OWARIのメンバーが自在に曲に合わせ、踊るというものです。 そして、曲の展開に応じて『 Saoriの首から上だけが異様に拡大され、 他のメンバーと彼女の身体のサイズ感の差が非現実的なレベルに広 がる』といった“マジック”が画面に施されます。“ 窓が無い空間”は言わば、外界の常識等から隔絶された“セカイ” です。『スノーマジックファンタジー』 のPVとディズニーランド、或いは秋葉原のアニメ・ ショップとの間に共通点を探すのは難しい作業ではありません。
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『Tree』の収録曲は全13曲。
残り10曲(『4.ムーンライトステーション』『5.アースチャイルド』『6.マーメイドラプソディー』『7.ピエロ』『8.銀河街の悪夢』『9.Death Disco』『10.broken bone』『11.PLAY』『12.RPG』『13.Dragon Night』)のレビューは、本誌でお楽しみを。
『炎と森のカーニバル』と『RPG』を対比させながら、語ったり、『Death Disco』と『Dragon Night』に今後のSEKAI NO OWARIの活動の発展の形を見出したり……といろいろ試みてます。
上のレビューの続きが気になる方は、5月4日、文学フリマに是非お越しください!
九十現音